帰無仮説 ( H_0 ) と対立仮説 ( H_1 ) の設定は
逆にすることはできません。なぜなら、帰無仮説は統計的検定の基準として扱われ、対立仮説はそれに挑戦する仮説だからです。
帰無仮説と対立仮説の役割
1. 帰無仮説 ( H_0 )
• 「差がない」「効果がない」「変化がない」といった、通常の状態(デフォルト)を表す。
• 証明するのではなく、統計的に棄却することを目的とする。
• 例:「新しい薬と従来の薬に効果の違いはない」
2. 対立仮説 ( H_1 )
• 「差がある」「効果がある」「変化がある」と主張する仮説。
• 帰無仮説を棄却できた場合に、間接的に支持される。
• 例:「新しい薬は従来の薬よりも効果がある」
なぜ帰無仮説と対立仮説を逆にできないのか?
1. 統計的な枠組みが成り立たない
• 仮説検定は、帰無仮説のもとでのデータの振る舞いを基に、「それがどれくらいあり得ないか(p値)」 を評価するもの。
• 帰無仮説を証明するのではなく、帰無仮説が正しいと仮定したときに、観測データがどのくらい極端なのかを測る。
2. p値の解釈ができなくなる
• p値は「帰無仮説が正しいとした場合に、現在のデータ以上の極端な結果が得られる確率」。
• もし「効果がある」ことを帰無仮説にしてしまうと、統計的な枠組みが崩れ、何を評価しているのか分からなくなる。
3. 科学的な結論の信頼性が低下する
• 帰無仮説を「差がある」にしてしまうと、統計的にその仮説を証明することになり、バイアスが生じやすい。
• 科学的な研究では、「効果がある」ことを直接証明するのではなく、「偶然では説明できないほどの差があるか?」を検証する。
例:医薬品の効果検証
• 正しい設定
• H_0 : 新薬と従来薬に効果の違いはない
• H_1 : 新薬は従来薬より効果がある
• 検定の結果、p値が小さければ帰無仮説を棄却し、新薬の効果があると判断
• 間違った設定(逆にした場合)
• H_0 : 新薬は従来薬より効果がある
• H_1 : 新薬と従来薬に効果の違いはない
• この場合、検定が新薬の効果を証明するものになり、統計の枠組みが崩れる
例外的なケース
• 帰無仮説の設定は、場合によっては「効果がある」方を H_0 にすることも可能だが、通常は推奨されない。
• 例えば、品質管理などでは「製品に欠陥がある」ことを H_0 にすることがある(例:検査に通らなければ出荷しない)。
• しかし、基本的には「現状維持」の立場を帰無仮説とし、「変化がある」ことを対立仮説にするのが統計的に妥当。
結論: 帰無仮説と対立仮説は統計的な枠組みのもとで決められているため、逆にすることは適切ではない。